大判例

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鹿児島地方裁判所 昭和28年(行)7号 判決

原告 谷口ふみ

被告 末吉町長

一、主  文

被告が原告に対してなした昭和二十八年度町民税均等割三百円の賦課処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、被告は原告に対して昭和二十八年度町民税均等割三百円の賦課処分をなし、原告は同年七月二十日に右均等割徴税令書の交付を受け、これに対し同年八月十九日に異議の申立をしたところ、被告は同年九月十六日に右申立を却下する旨の決定をなし、該決定書は翌十七日に原告に送達された。しかしながら右課税処分にはつぎのような違法がある。すなわち、原告の夫たる訴外谷口豊二は明治十四年十二月十六日生で、地方税法第二百九十五条第一項第三号所定の六十五年以上の者に該当するものとして町民税の賦課を免除されているものであるから、原告はその同居の妻として同条第三項によつて一応均等割の課税の対象となり得るけれども、前年中(昭和二十七年)において所得を有しなかつたものであるから、同条第一項第一号によつて結局課税の対象とはなり得ないものである。よつて原告は被告のなした本件課税処分は違法であるから、その取消を求めるために本訴請求に及んだと述べ、被告の主張事実に対し、原告の夫豊二が所得税納税義務者として昭和二十七年の農業収入金額について、岩川税務署に対し、田一万七千九百二十円、畑一万九千三百八十円、合計三万七千三百円として申告したことは認めるけれども、該申告は末吉町からなされた生産割当に基き形式上なされたもので豊二は同年中田一反八畝十八歩、畑一反九畝五歩を耕作していたが、実際の収入は合計四万八千百二十五円で必要経費合計四万七千三百九十五円を差引き七百三十円に過ぎなかつた。原告が夫豊二と共に農業に従事しているとの点は否認する。仮りに原告が農業に従事していたとしても、所得税法第八条(昭和二十八年法律第百七十三号による改正前のもの)の趣旨に則りその所得が二万円(準備書面中三万円とあるのは二万円の誤記と認める)を超えなければ課税の対象となり得ないもので原告の所得は右金額に達しないのであるから、これに対する課税処分は違法であると述べた(立証省略)。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、被告が原告に対し昭和二十八年度の町民税均等割三百円の賦課処分をなし、同年七月二十日に右均等割徴税令書を原告に交付したこと、これに対し原告から同年八月十九日に異議の申立があつたが、被告が同年九月十六日にこれが却下決定をなし翌十七日に該決定書を原告に送達したこと、被告の夫たる訴外谷口豊二が地方税法第二百九十五条第一項第三号所定の六十五年以上の者に該当するものとして町民税の賦課を免除されていることは認める。しかしながら被告は本件課税処分をするについては、原告の夫豊二が所得税納税義務者としてなした岩川税務署に対する申告により同人の昭和二十七年の農業所得が四万八千七百七円であることを認め、かつ原告が右豊二と共に農業に従事して所得を有したものであることを認めてなしたものであるから、原告主張のような違法はない。又所得の額については原告主張のように所得税法第八条の規定が準用されるものではなく、その多寡を問わないものである。以上のとおりであるから原告の本訴請求は理由がないと述べた(立証省略)。

三、理  由

被告が原告に対し昭和二十八年度町民税均等割三百円の賦課処分をなし、原告が同年七月二十日に右均等割徴税令書の交付を受け、これに対し同年八月十九日に異議の申立をしたところ、被告が同年九月十六日に右異議を理由なしとして却下の決定をなし、該決定書が翌十七日に原告に送達されたことについては当事者間に争いがない。

しかして地方税法第二百九十五条は個人の市町村民税の非課税の範囲について規定し、同条第三項においては、「市町村は、同居の妻(夫が均等割の納税義務を負わない場合を除く。)に対しては、均等割を課することができない。」ことを定めている。思うに右第三項の趣旨は妻は、社会生活の単位として夫と同居して生計を一にし夫と一体をなすのが常態であるから、夫が均等割の納税義務を負う場合において、同居の妻に対し更に均等割を課することは、同一の対象に対し二重に課税することゝなり、均等割の性質上妥当を欠くからである。ところで右第三項の除外例に従い、同居の妻が均等割の課税の対象となる場合においても、若しその者が所得を有しない場合においては、同条第一項第一号により課税することができないことになるから、右第三項は、夫が均等割の納税義務を負わない場合において同居の妻が前年中に所得を有していた場合に限り、同人に対して均等割を課することができることを定めたものと解するのが相当である。

そこで本件についてこれをみるに、原告の夫たる訴外谷口豊二が、地方税法第二百九十五条第一項第三号所定の六十五年以上の該当者として町民税の賦課を免除されていることについては、当事者間に争いのないところであるから、右豊二の同居の妻たる原告は同条第三項により一応均等割の課税の対象とされるけれども、若し同人が前年中に所得を有しなかつたとすれば、同条第一項第一号により結局課税の対象とはなり得ないものである。しかるに被告は原告は夫豊二と共に農業に従事して所得を有していたものであると主張するのでこの点について考えてみるに、原告の夫豊二が昭和二十七年中に田一反八畝十八歩、畑一反九畝五歩を耕作していたことは原告の自認するところである。しかして証人検見崎清量(後記措信しない部分を除く)同矢上勘左衛門の各証言によれば、原告が田畑の行き帰りに手車を引いていた事実のあることが窺われる。右証人検見崎清量の証言中原告が畑仕事をしていた旨の供述は同証人の実見に基くものでないことが、同供述自体により明らかであるのみならず、後記証人末吉清信、同市来とよの各証言に対照して信用することができない。ところが証人末吉清信、同市来とよの各証言によれば、右田畑の田植耕耘収穫等の作業は専ら人夫を傭つて行われ、豊二はたゞその指図をなし、原告は傭人にお茶を出したり、或は食事の世話等をしていたに過ぎないことが認められる。しかしながら原告が夫豊二経営の農業に補助者として時たま田畑の行き帰りに手車を引いたことがあり、或は傭人に出すお茶食事等の世話をしたことがあつたとしても、単にその程度の事実をもつては未だ原告が農業に従事したものとは到底認めることができず、又成立に争いのない乙第一号証の一乃至三及び五、六同第二号証並びに第三者の作成にかゝり当裁判所において真正に成立したものと認める乙第一号証の四及び七を総合すれば、谷口豊二が昭和二十六年十一月二十六日及び昭和二十七年四月十四日に農地調整法第四条の申請をするに際し、農業従事者たる家族として女一名を記載し、それが原告を指すものであることは認められるけれども、単にその記載のあることのみによつては原告が農業に従事していた事実を認めるに足らず、その他に右事実を認めるに足る証拠はない。しかりとすれば原告が農業に従事して所得を得たという事実の証明はないことに帰し、又原告が他に農業以外から所得を得ていたという事実も認められないので、原告は地方税法第二百九十五条第一項第一号該当者として町民税の賦課を免除されているものというべく、従つて原告に対して被告のなした昭和二十八年度町民税均等割三百円の賦課処分は違法なものとして取消を免れない。

よつて原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森田直記 山本茂 緒方誠哉)

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